2012年4月3日火曜日

腎臓病から見えた老化の秘密


今、腎臓が老化という現象に深く関わっているのではないかと言う話題が注目されている。平成24年3月号の、「腎と透析」という医学雑誌も、「klothoと腎臓病」という特集を組んでいる。

ちなみに、クロトー(Klotho)とは、ギリシア神話の中で、万能の神ゼウスと妻テミスの娘で、運命を支配する3姉妹の女神の一人だそうだ。長女クロトーは生命の糸を梳き紡ぐ、次女ラキシスは糸の長さを測る。三女アトロポスは糸を切って生命の終焉を告げるとされる。この3人の女神によって決められた寿命は、何人たりとも変更することはできないとされているそうだ。

Klothoと名づけられた老化抑制遺伝子が見つかったのは、1997年。日本人の黒尾誠先生の発見による。この遺伝子を破壊すると、マウスに早老症候群が起こり、逆に過剰に発現すると、寿命が延びることがわかった。

このKlotho遺伝子のつくるKlotho蛋白は、FGF23呼ばれる因子の受容体となっていることがわかった。FGF23(Fibroblast
growing factor 23)とは、骨細胞から分泌されて、尿中へのリンの排泄を促す因子である。

FGF23が働くためには、Klotho蛋白の存在が必要であり、FGF23が働かないと、リンの蓄積が起こる。簡単に言うと、リンの蓄積が、早老症候群の発症に必要であることがわかってきた。

このKlotho遺伝子が、体の中では、主に腎臓で発現していること。
リン利尿因子のFGF23と緊密な連絡を持つことなどから、腎臓病と老化、リンの貯留、血管の石灰化、骨代謝といった問題が、KlothoとFGF23という因子の解明で、新たな展開が始まろうとしている。

腎臓は、単に老廃物を排泄する臓器から、老化を制御する臓器であるのかもしれない。今後の研究の展開が興味深い。



「腎臓病から見えた老化の秘密」
クロトー遺伝子の可能性

草野英二 黒尾誠 共著

日本医学館 1,000円

2012年3月23日金曜日

なぜ、エリスロポエチンは腎臓で産生されているのか?

以前から、ずっと気になっていたことであるが、造血因子として非常に重要で、なおかつ近年の遺伝子工学の技術で製品化され、多くの腎不全患者に福音をもたらしたエリスロポエチンであるが、その造血に重要な役割を演じている、エリスロポエチンが、なぜ骨髄ではなくて、腎臓に存在するのかということは、かねてから疑問であった。
自身の不明を恥じるばかりであるが、
最近読んだ教科書の中に、そのヒントについて記載があった。
「保存既腎不全の診かた」柴垣有吾著 のなかに、その記載がある。

Donnelly らの総説によると、生体には体液量を感知するセンサーとして、Critmeterというものが存在するのではないかということである。赤血球数と体液量で規定されるヘマトクリットをおよそ45%という適切な濃度に維持することが、生体の酸素供給としては効率的であるという。

このヘマトクリットを感知するCritmeterは、腎臓の近位尿細管近傍にあり、この部位にエリスロポエチンの産生がみられるとのことである。

体液量と組織への酸素供給を決める上で、このCritmeterによるエリスロポエチンの産生が合目的なのであろう。という。

この総説は、2001年のものであり、すでに10年が経った。
その後の進展は、いかがなものか、また学説の進展に興味をもっておこうと思う。

2011年3月12日土曜日

腎臓のはたらき ~南口メデイカルタイムズに寄せて~


腎臓のはたらき
いまい内科クリニック 今井信行

腎臓はからだの中でどのような働きをしていますかと問われると、多くの人が、「おしっ
こをつくるところです。」と答えるに違いない。でも少し詳しく、この尿をつくるという機
能を調べてみると、腎臓は尿をつくることを通して、生命の維持に大きな役割をしている
ことがわかります。少し詳しく記載してみましょう。
腎臓の機能を列記してみると、尿をつくるという機能を通して腎臓は以下のような役割
を演じています。

1)水分バランスを保つ
2)ナトリウム、カリウムなどの電解質のバランスを管理し濃度を一定に保つ
3)栄養素である窒素を尿素として排泄し、たんぱく質の代謝を行なう。
4)重炭酸(アルカリ)を再吸収し、からだが酸性に傾くのを防ぐ。
5)ビタミンD を活性化することで小腸からカルシウムを吸収し、骨代謝を保つ。
6)食事(とくにたんぱく質)から摂取されたリンを尿中に排泄することで、血中のリン
濃度を保ち骨代謝を保つ。
7)レニンと呼ばれる酵素を分泌し、アンジオテンシンⅡという強力な昇圧物質を介して、
血圧を維持する。
8)エリスロポエチンという物質を分泌し、赤血球の産生を促し一定に維持する。

ざっと、列記しただけでも腎臓は尿を作るということを介して、以上のような働きを行
なっていると言われています。
このような働きを、生体の恒常性維持(ホメオスタシスの維持)というように表現する
場合もあります。生体にとっての内部環境を一定に保ち、それぞれの細胞が生存し代謝を
営みやすい環境を維持するということです。

腎臓は尿をつくることで余分な水分を体外に排泄します。一方で、水の得にくい状況で
は、尿を濃縮し制限することでからだの中の水分を保つように働きます。
ナトリウムやカリウムなどの電解質についても同様です。ナトリウムは血液などの細胞
外液にあっては最大量を占める電解質であり細胞外液量を規定する重要な因子ですが、腎
臓はそのナトリウム(分りやすく言えば塩分)の少ない環境では、ナトリウムの再吸収を
促し、一方ナトリウムの多い環境ではナトリウムを排泄し、その濃度を一定に保ちます。
ナトリウム摂取が多いと血圧は上昇し体液量は増加し、浮腫や心不全を招くことになり
ます。腎臓と高血圧の発症には密接な関係があるとされており、古くからそして今もなお
重要な研究テーマです。

例を挙げると、日本人の平均的な塩分摂取量は一日10g 程度ですが、南米アマゾンに住
むヤノマモインデアンは一日の塩分摂取量は約0.1g とほとんど塩分を摂取しません。そし
て彼らの間では高血圧の発症はみられません。これらの事実からは、塩分摂取量と高血圧
の発症には相関があると指摘されています。

一般に高血圧と診断された場合、その90%は原因が不明であり本態性高血圧と診断され
ます。本態性とは現在のところ原因が分らないということです。しかし仮説としては、腎
臓での塩分排泄能力の低下が本態性高血圧症の原因ではないか、という説が有力です。
実際、高血圧と診断された場合、食事中の塩分摂取の減量すなわち減塩食が薬物療法に先
んじて推奨されます。

このような腎臓の体液管理の働きのおかげで、私たちは宴会でビールをジョッキに何杯
も飲んだとしても体中が浮腫んで心不全になることもなく、逆に炎天下で喉が渇いたとし
ても尿を濃縮することで体液量や組成を一定に保ち、60 兆個もあるとされる細胞は安定し
た環境で代謝を営み生命の維持に貢献しています。

腎臓は腰の位置に左右に一対存在する臓器です。その大きさは直径でおよそ12cm、重さ
にして150g程度ですが、臓器重量あたりの血流量は最も多く、およそ一分間に800ml~
1200ml もの大量の血液が流れ込みます。大動脈から腎動脈を経て腎臓に入った動脈は複雑
な分岐を繰り返すとともに、細動脈の一部が各100 万個にも及ぶ糸球体という特殊な血管
構造となります。この糸球体には内窓と呼ばれる比較的大きな窓が内皮細胞に空いており、
物質の通過が容易です。

上述のように腎臓に流れ込んだ大量の血液はこの糸球体で濾過され、その結果、初期尿(原始尿)としては一日150 リットルもの尿が生成されることになります。腎臓はひとまずこのように大量の尿を作り出すことで、体内の老廃物を濾過した後、尿細管と呼ばれる部位でこの一度濾過した初期尿中から体に必要なものを再吸収するという巧妙な仕組みをとります。
濾過するだけであれば、例えば人工腎臓というかたちで真似ることができますが、再吸
収することを人工的に再現することはできません。このように大量に濾過し、積極的に繊
細に再吸収することで生体の恒常性は維持されます。
私たちは巨大な濾過清浄器を備えて毎日生活しているというわけです。

中国の古書に「骨の源は腎なり。」という言葉がありますが、腎臓は骨の代謝にも重要な
役割を演じています。ビタミンD は小腸からカルシウムを吸収するホルモンで、血中のカ
ルシウム濃度を維持するのに必須です。ビタミンD はコレステロールから皮膚で日光を浴
びることで合成され、さらに腎臓で酵素的に活性化されます。腎臓が悪くなると、ビタミ
ンD の活性化が起こらず、カルシウム不足から骨の脆弱化を引き起こすことになります。

例えば極端な例ですが、イタイイタイ病として知られる病気は、岐阜県の神岡鉱山から流
出したカドミウムの汚染により富山県の神通川流域の住民に見られた病気です。カドミウ
ム中毒により腎臓の尿細管が障害を受け、リンの再吸収が障害された結果、低リン血症低
カルシウム血症となり、骨は骨軟化症と呼ばれる変化を受け容易に骨折します。これも腎
臓が骨の代謝に大きな影響を与えていることを示すものです。

また腎臓の糸球体近傍には、糸球体に流入する血圧や濾過された初期尿のナトリウム濃
度などを感知して、レニンというホルモンが分泌されています。レニンは酵素として働き、
アンジオテンシンⅡという生体内で最も昇圧作用の強い物質を生成します。
例えば、大量に出血して血圧が下がりショックになった場合を考えてみると、糸球体に
流入する血圧も低下することに応じてレニンが分泌され、アンジオテンシンⅡが生成され
血圧が上昇し、糸球体にかかる血圧を維持するように働き、血圧低下時であってもできる
だけ尿が生成できるように維持しようとします。生体にはこのような自己調節機能が何重
にも用意されていて、生体が危険にさらされた時にも安全機構として働きます。

腎臓は組織重量あたりの血流量の多い臓器であると最初にお話しましたが、加えて複雑
な血管系の存在から、腎臓は血液中の酸素濃度を検知するのに適した臓器でもあります。
腎臓ではこのような低酸素刺激を感知して、赤血球の産生を促すエリスロポエチンという
物質が産生されます。エリスロポエチンの発見、その後の遺伝子工学を利用した医薬品へ
の応用は、今日多くの腎不全患者を貧血から解放する大きな福音となっています。

以上、簡単に腎臓の働きについて書いてみました。まだまだ腎臓には多くの働きがあり
ます。次回は、このような腎臓にどのような病気が起こるのか、逆に腎臓はさまざまな病
気でどのような影響を受けるのか記載してみたいと思います。





2010年8月13日金曜日

透析液水質確保加算

透析液の水質管理について

平成22年4月の保険改正にて、上記、 透析液水質確保加算が新設されました。
これは、人工腎臓における合併症防止の観点から、使用する透析液についてより厳しい水質基準が求められました。こうした基準を満たした透析液を使用していることに対する評価が行なわれました。

当院でも、早速平成22年4月より、この水質管理基準を遵守し、透析液の水質管理により注意し、より安全な透析治療を目指しております。
参考: 腎と透析68(4)、557-560、2010.

2010年5月5日水曜日

2-3-2 シナカルセト(2)

副甲状腺ホルモン分泌抑制薬:calcimimetics
永野伸郎 ホルモンと臨床 vol55; no7, p39- , 2007.


シナカルセトによるPTH抑 制作用は、主として、PTH分泌抑制作用であるが、一部、合成抑制作用もある。

副甲状腺細胞の増殖の低下、肥大した副甲状腺細胞の退縮が得られる。
シナカルセトは、副甲状腺細胞にアポトーシスをおこさないので、細胞数の減少はおこさない。
しかし、 シナカルセトにより、CaRやVitDRが発現増加することが知られており、これらを介して、副甲状腺機能が低下する可能性もある。

骨作用:
腎不全ラットでは、高回転型骨代謝にて、シナカルセトの投与により、皮質骨骨密度の改善、骨強度の改善、皮質骨そしょう化の抑制、ならびに繊維性骨炎の発症を抑制。
シナカルセトの投与による、oscillation(間歇的な副甲状腺抑制)が有効か?

異所性石灰化抑制作用:
過剰投与のVitDは、血中のCa×Pi積を上昇させ、大動脈中膜、心、腎、肺に異所性の石灰化を惹起する。シナカルセットの投与は、石灰化を惹起しないことに加え、VitDと併用することにより、VitDによる石灰化を抑制する。

少数例での報告であるが、透析患者へのシナカルセトの臨床使用によって、骨型アルカリフォスファターゼの低下、繊維性骨炎の抑制、大腿骨骨密度の増加、骨生検所見の改善が得られている。





現在以下の臨床試験が計画されているとのこと。
シナカルセトによる、死亡率と心血管疾患への影響(EVOLVE試験)
血管石灰化に対する、低容量VitDとの併用試験(ADVANCE)

2010年3月18日木曜日

2-4) 新しいリンの吸着剤 ホスレノール とは。

2-4) 新しいリン吸着剤 「ホスレノール 250mg/500mg 」
【はじめに】
リンはほとんど全ての食品に含まれています。特にタンパク質1gあたりには、約15mg含まれていると言われています。生物はリン酸をエネルギー源とし て使用するために、リンは生命の活動に必須なものです。
一方、リンは主として腎臓から排泄されます。腎不全で透析を受けておられる方では、この尿からの排泄経路がありません。また人工透析では最近の高性能の 透析膜を使用しても、1回の透析でおよそ1000mgのリンが除去できるにすぎません。一日あたりにすると、約500mgです。
したがって、透析患者さんは透析では除去しきれないリンを排泄するために、リンの吸着薬の服用が必要でした。代表的な薬が、「炭酸カルシウム」です。し かし、炭酸カルシウムを過剰に服用すると、血清カルシウム値が上昇することになり、上昇したカルシウムは、血管壁に蓄積したりして、異所性石灰化という、 透析の長期合併症を起こします。
アメリカの意見では、炭酸カルシウム(炭カル錠、1錠500mg)の服用は、6錠までと勧告されています。
そこで透析患者さんは、リンの制限を余儀なくされていました。
皆さんも、血液検査をするたびに、「リンが高いですね。」、「リンの高い食品に注意してください。」と、言われたことが何度もあるに違いありません。
【炭酸ランタン】
今回、ランタンと呼ばれる希土類元素が製剤化され、炭酸ランタンとして、リン吸着剤として、2009年3月より、バイエル薬品より発売されることになり ました。
昔、日本でもアルミニウムが強力なリン吸着剤として使用されていましたが、アルミニウムは腎不全患者では蓄積性があり、脳に沈着する可能性が指摘されて 以来、アルミニウムの透析患者へのリン吸着剤としての使用は禁忌となりました。
ランタンはアルミニウムに匹敵するリン吸着力を持ちます。リンの吸着力は、ランタン1500mg=炭酸カルシウム3000mg=セベラマー6000mgに 相当すると言われています。
しかも製剤として、カルシウムを含みませんので、炭酸カルシウムの服用時に経験する、カルシウムの上昇という問題は起こりません。
また生体への吸収は極めてわずかで、胆汁よりの排泄性であり、腎不全の患者さんでも安心して服用できるとされています。
ランタン(陽イオンに乖離)は、消化管内で、リン酸の陰イ オンと強固に結合して、難溶性の物質となり、リン酸を便中に排泄します。

【炭酸ランタン、ホスレノールの服用にあたって】
1) この薬は、水無しで服用できるように工夫された、チュアブル錠という剤型です。
服用時には、充分な効果を得るために、口の中で細かく噛み砕いてください。

2) この薬は、噛み砕きやすいように、軟らかい剤型であるために、崩れやすい一面があります。包装のなかでも崩れている場合がありますが、その場合でも、1回 分の錠剤をそのまますべて服用するようにしてください。
3)腹部レントゲン撮影をした際に、この薬の影が映ること がありますが、心配しないで下さい。
4)服用は、一日3回、食事の直後に服用することように勧 められます。
5)副作用は、悪心、嘔吐、胃部不快感、便秘などがみられ ます。
食事の直後に服用することで、これらの副作用を軽減できるとされています。
6)リンの排泄を促進する薬ではないので、食事制限が不要 になるわけではありませんが、以前にもまして、リンのコントロールが容易になることと思います。

2010年3月17日水曜日